2013/10/11

アナタはなぜチェックリストを使わないのか 重大な局面で正しい決断をする方法 The Checklist Manifesto How to get things right

チェックリストは手間がかかかるし、面白くない。怠慢な私たちがチェックリストが嫌いなのだ。しかし原因はもっと根深い。私たちは、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底では思っているのだ。本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない、複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切ってしまう、と思い込んでいるのだ。『優秀』という概念自体を変えていく必要があるのかもしれない。

去年読んだが常に頭の隅に存在するこの本は名著であると思っている。中を読めば解ると思うが、プレッシャーのかかった場面でミスをしないためにはチェックリストは必須だ。

本書の中でチェックリストの手順を飛ばす誘惑について書かれているが、この手順を省くことによって痛い目にあったことは数知れない。自分の過去の経験を有用なものへとするにはチェックリストの作成とそれに忠実である必要がある。

思い起こせば競馬を始めた時分からこのことは身に染みている。馬券の購入数分前になるとブザーがなり決断を促されるが、このような時に迷っているにもかかわらず焦って購入するとほとんどが厳しい現実に繋がっていた。

そこで少年 or 青年だった自分は意思決定の木を書き始めそれを徐々に発展させていった。その中の一つには『迷ったら見送り』という項目が上の方に来ていた。このチェックリストのお陰でどれほど助かったことだろうか。他にも、能力、騎手、調子、というのは大きな項目であった。

いま思えばもちろんそんな概念があるとも知らず自己流であったが、必要に駆られて勝手に作ったものとしてはかなり良い出来であったと言える。とにかく適当にやると負ける世界だったのがその後には良い影響を与えたと今になっては思う。

本書ではパイロットや投資についても触れられているがここでも事態は同じだ。時間が迫っている時に一つ一つ想起していくのは困難を極める。だから事前にチェックリストを作っておくのである。それは過去の集大成とも言える。

そしてそれだけでは不完全であり、それを忠実に使うこと。これは規律にあたり、投機の本には必ず書かれていることである。この規律の維持もチェックリストとは切っても切り離せない関係になる。

チェックリストを使うのは創造性がなくなるとか没個性的になるというのはほぼ迷信と言うことができるだろう。実際は本書でもあるとおり、余計なリソースを使わない、効率的になり考える時間が増えるという点で使わないより余程、想像的になることができる。習慣の維持を大事だと思うのも毎日やることが決まっていれば時間が生まれるからと言えるだろう。

己を超人的な天才であると思わない人であれば(天才でも肉体が疲労すれば間違える)是非読んで欲しい一冊だ。自分も横着している部分があるので改めてチェックリストを整えるようと思う。

一番後ろにはチェックリストを作成する際のチェックリストが載っていたので書き写してみた。

医療業界におけるチェックリスト

・脳梗塞の30%以上、喘息の45%、肺炎の60%が適切な治療を受けていないというデータがある。ただし治療法を知っていても、手順を1つも誤らずにそれを行うのは非情に困難だ。

・間違うのは複雑性が増したから。医療に限らず、知識と技術はどの分野でも驚異的に発達しており、その分だけそれらを使いこなすのがどんどん難しくなっている。

・医者は外来だけで1年に平均250種類の病気を診ている。

・患者1人あたり、1日に平均で178もの手順が必要だ。わずか1%のミスでも、1人あたり約2つのミスが起きる。

・20世紀初頭なら高校を卒業し、医学学校に1年通えば医者になれた。だが現在は、4年生の大学と4年のメディカルスクールを卒業し、それから専門を選んで3年から7年の研修を修了しなければならない。さらに最近の若い医者はフェローシップに進み、1年から3年の専門トレーニングを受ける。現代は超専門家の時代なのだ。

・チェックリストを医療現場に導入した実験では、感染率が11%から0%へ、患者の痛みが見過ごされる確率は41%から3%へ、人工呼吸器の患者が不完全なケアを受ける確率は70%から4%まで下がった。このことからチェックリストは、記憶の喚起を助け、最低限の手順を示すだけでなく、医療レベルの底上げにも有効なことが解った。

・手術件数は2004年には2億3千万件行われその後も増え続けていると予想されている。そして手術件数は出産件数を既に越えており、手術の方が死亡率も10倍から100倍も高い。

・手術には4つの大きな死因がある。感染症、出欠、麻酔、予期せぬ出来事だ。



建設業界、料理におけるチェックリスト

・32階建ての高層ビルを取材した。新しいプロジェクトを始めるときはまずチェックリストが作られる。16の業種の代表者が話し合い、各業種の仕事をまとめた大きなチェックリスト作る。

・起こりうる全ての問題を事前に予測するのは不可能だが、問題が発生しやすそうな工程や時期は予想できる。だから事前にコミュニケーションの予定を入れておくことで、問題が発生しても対応できる。提起スケジュールには、いつまでに誰と誰が何について話し合うのか、次の工程に進む前にどの情報を提起しなければいけないのかが記されている。

・人は誤りやすい。しかし人々は誤りにくいのではないか。

・現状把握とコミュニケーションの円熟化こそが、ここ数十年の建築の最大の進歩だ。

・建設を任された専門家たちは個人の能力を過信せず、2種類のチェックリストを使う。単純な手順の間違いを防ぐチェックリストと、話し合いをさせることで予想外の困難も確実に全て解決させるためのチェックリストだ。建築業界では、大抵の悲劇はコミュニケーションの失敗が原因だ。

・アメリカ国内では深刻な建物の失敗は年間20件だ。これは年間の失敗率に直すと、0.00002%未満だ。建築物はより高度で複雑になり、耐震やエネルギー効率の基準も厳しくなったが、工期は1/3に短縮されている。

・予想外の複雑な問題に対処するには、決定権を中央から末端に分散させる。本当に複雑な状況、つまり1個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況では、中央から全てを指示しようとすると必ず失敗する。カトリーナはその教訓である。複雑な問題に対処するには自由と制約の適度な配合が欠かせない。

・料理の質を一定に保つためには、レシピは必ず守らなければならない。しかし不確定要素や問題の種は多い。そこで、シェフは最後に1つのチェックリストを設けていた。最後に料理を1皿ごとに点検し、香り、時には味まで確認してから客に出すのだ。少なくとも5%がここで返品されていた。

航空業界におけるチェックリスト

・航空業界の用語には、ポーズ・ポイント(一時停止点)というものがあり、そこに到達するとチームは立ち止まっていくつかのチェックを受けなければならない。

・航空業界のチェックリストは、いくつものチェックリストを集めたものだ。1つ1つのチェックリストは驚くほど簡潔で、1ページに大きな見やすい文字で数行書かれているだけだった。それぞれのチェックリストが別々の事態に対応しており、実に多様なシナリオに備えられていた。

・また平時のチェックリストと非常事態時のチェックリストが作られていた。後者は、万一そのような事態が起きた場合に従うべき手順がしっかり用意されていた。

・良いチェックリストは明確だ。効率的で、的確で、どんなに厳しい状況でも簡単に使える。全てを説明しようとはせず、重要な手順だけを忘れないようにさせる。なにより実用的であることが良いチェックリストの条件だ。

・パイロットは真っ先にチェックリストを手に取る。理由は2つだ。第一にそのように訓練されているからだ。人間の記憶力と判断力は不確かで、その事実を認識しないと死人が出る、ということを航空学校入学当初から叩き込まれる。第二にチェックリストの価値が認知されているからだ。

・チェックリストを作るにあたっては、いつチェックを行うのかという一時停止点をはっきり決めておくこと。また『行動のち確認』のチェックリストにするか、『読むのち行動』のチェックリストにするかも決めておく。

・チェックリストは長すぎてはいけない。原則として5個から9個にしておくと良い。

・一時停止点は60秒や90秒かかってしまうと、チェックリストはかえって邪魔になることが多い。

・チェックリストは必ず実世界で試用する必要がある。

・チェックリストは、パイロットたちがシミュレーターでチェックリストを使うのを何時間も観察し、かかった時間を計測し、洗練し、無駄なものを全てそぎ落としたのが、今回使用したチェックリストだ。

・チェックリストやフライトシミュレーターが発達し、飛行の危険性が下がっていくにつれ、慎重さと注意深さの方がより重要になってきた。勇敢なテストパイロットたちをロックスターのように崇める文化は、徐々に消滅していってしまった。

・フライトの成功には副操縦士が欠かせない。機長と副操縦士は、操縦と機器とチェックリストの官吏を交互に担当する。

投資の世界におけるチェックリスト

・大もうけの予感とコカインは、同じ原始的な脳の回路を刺激する。一流の投資家はそのような時こそ冷静を保つように努める。

・景気が良いときは誘惑に負けて、確認を怠ってしまう。逆に冷え込んでいるときは、恐怖モードに入ってしまう。周りが大損しているのを見て、危険性を過大評価してしまう。

・決算書をチェックする項目はどれも本当に基本的なことばかりだ。でも驚くほど多くの人たちがやっていない。エンロンの破綻だって、決算書を見ればひどいことになるのは明らかだった。

・チェックリストはマニュアルではない。方程式でもない。だが、全ての手順にておいてベストの選択をする手助けをしてくれる。必要な時に肝心な情報があるように、安定した判断ができるように、話しあうべき人たちと話し合えるようにしてくれる。

・チェックリストはミスを減らすだけではない。効率性を上昇させる。チェックリストを導入することにより、全体の所要時間は短縮され、より多くの投資先を検討できるようになった。

・驚くべきことに、他の投資家は試そうとさえしない。チェックリストについて聞いてきた者はいる。でも実際に使ってみた者は一人もいない。

・ベンチャーキャピタリストを分類した研究がある。

美術評論タイプ = 長年の経験と勘をもとに一瞬で決める

スポンジタイプ = 時間をかけて調べる。だが結局最後は直感に任せる

検察官タイプ = 起業家を問い詰める。難問を投げかけ、知識があるか、様々な状況に対応できるかなどを試す。

八方美人タイプ = 審査よりも企業家に好かれることに専念する

ターミネータータイプ = 起業家を評価するのは無理だと考え、人物の審査をしない。とにかく1番良いアイデアに投資し、経営者が無能だと思えばすぐにクビにして代わりを雇う。

機長タイプ = 過去のミスや同業者の失敗を分析してチェックリストを作り、それを使って丁寧に仕事をする。この人なら絶対に成功すると直感的に思っても、自分を律し、手順を絶対に飛ばさない。

・機長タイプの成績が突出していた。彼らが不適任を理由に経営者をクビにする、または当初の評価は間違いであったと結論付ける確率はわずかに10%。他のタイプでは50%以上だった。

・機長タイプの方が断然有利なのにもかかわらず、大半の投資家は美術評論家タイプかスポンジタイプだった。機長タイプは8人に1人だった。丁寧に分析する人よりも、直感で判断する人の方がずっと多かったのだ。

・機長タイプの有利さは知られるようになったが、チェックリストを使う投資家の割合は変わっていない。

その他

・人々が手順を忠実に守らない理由の一つに硬直化が怖いというのがある。機械的にチェックを行っていたのでは現実に対処できなくなる、チェックリストばかり診ていると心のないロボットのようになってしまうと思い込んでいる。だが実際には、良いチェックリストを使うと真逆の事が起こる。チェックリストが単純な事柄を片付けてくれるので、それらに気を煩わせる必要がなくなる。

・どの専門職にもプロフェッショナリズムがある。第一に無私であること。第二に腕があること。第三に信用に足ること。航空業界の人々はそこに四つ目を加えた。規律だ。よくできた手順には絶対に従うこと。必ず他者と協力しあうこと。

・時々思い出したように仲良く協力しましょうと言っているようでは駄目なのだ。本当に必要なのは、絶対に協力しあうという決まりを作り、常にそれに忠実であることだ。

・規律に忠実でいるのは難しい。信用に足ることや腕があることなどより難しく、もしかすると無私でいることよりも難しいかもしれない。

・科学技術の助けを借りても、私たちの肉体と精神には限界がある。人間は全知全能でもないので、どうしても無理なこともある。

・失敗の原因は2つ。1つ目は無知。科学は発達しているが、解っているのは本の一部だ。2つ目が無能だ。正しい知識はあるが、それを正しく活用できない場合を指す。

・1人の人間が仕事をするにあたって問題がある。1つは人間の記憶力と注意力の危うさだ。我々は切羽詰った状況では当たり前の事も忘れてしまいがちだ。1つ忘れるだけで全てが駄目になってしまうような作業では、物忘れは命取りだ。2つ目は手順を省く誘惑だ。全ての手順が毎回必要とは限らない。でもいつかきっと問題は起こる。

・チェックリストは素人からベテランまで万人向けに有効だ。人間の記憶力や注意力には限界があるので、見逃しやミスはどうしても起きてしまう。チェックリストはそのような失敗を防いでくれる。

・世の中の問題は3つに分類できる。

1つ目は単純な問題だ。ケーキの焼き方などがこれにあたる。いくつかの基本的な技術を学ぶ必要はあるかもしれないが、それらを覚えてレシピ通りにやれば高確率で成功する。

2つ目はやや複雑な問題だ。ロケットを月へ飛ばすのはこれにあたる。複数の単純な問題に分解できることもあるが、単純なレシピは存在しない。予期せぬ困難が頻発し、チームワークと専門知識が不可欠だ。タイミングや協調が重要な課題になる。

3つ目は複雑な問題だ。子育てなどが良い例だ。月へのロケットは一度やり方がわかればまた同じやり方で飛ばせる。何度も繰り返すことによって、飛ばし方を改良していくこともできる。だが、子供は1人1人が違う。1人子供を育てたからといって次がうまくいく保証はない。経験は有用だが、それだでは不充分だ。複雑な問題は先行きが非常に不透明なのだ。


チェックリスト作成のためのチェックリスト

開発

・はっきりとした目的が簡潔に定義されている

各項目は

・見逃される可能性が高く、必須である

・見逃しを防ぐ手立てが不充分である

・具体的な行動を促すものである

・声に出して確認できるものである

・チェックを行うことによって改善できるものである

以下についても検討したか?

・チームメンバーのコミュニケーションを向上させるような項目を加えること

・チームメンバー全員にチェックリスト作成に参加してもらうこと


起草

・仕事の区切りがよいところに一時停止点が設定されている

・一つの一時停止点でチェックするのは9項目まで

・平易な言葉でわかりやすく書かれている

・目的に沿ったタイトルが付けられている

・シンプルかつ論理的な形にまとめられている

フォーマット

・1ページに収まる

・色の使用は最小限に抑えてある

・文字の色が濃く、背景の色は薄い

・作成日がはっきりと記されている


検証

・実際に使うことになる人たちにテストしてもらった

・何度もテストし、その結果に応じてチェックリストを改良した

・仕事の流れを妨げない

・チェックリストを通すのに時間がかかりすぎない

・手遅れになる前に問題を探知できる

・今後、チェックリストを見直し、改良する予定を立てた

**Yellen氏、次期FRB議長へ

オバマはJanet Yellenを次期FRB議長にすることを決めた。学問的背景を持つこの人物の決定にマーケットは好感を示している。人柄も良いようだ。しかしいつtaperingを行うのかなど難しい問題が前途に待ち受けている。

**韓国の過剰教育

韓国では毎年5万人の大学卒業者が余る一方で、3万人の高校卒業者が不足している。このミスマッチは先進国で見られる共通の現象だが、韓国は一番その割合が多い。韓国では教育こそが、キャリア、結婚、賃金を決めると考えられているので、急激に発展した経済と伴って教育が熱心に行われてきた。しかし2009年以降は労働市場に参入する時期が遅くなったのが原因でGDPを押し下げる原因となっている。また学校外の教育費はGDPの1.63%を占めており、家計の負担となっているばかりか、1.2という世界最低の出生率を生む土壌ともなっている。この為、政府は高校卒業者を雇うことに対して助成金を与えている。

**大型旅客機の終焉

今週JALが中型で燃費の良いAirbusのA350の導入を決定したが、これは世界的な傾向である。Airbusはハブとハブを大型旅客機でつなぐ構想からA380を開発したが、これはニッチな市場に終わりそうであり、また年に30機受注しないと損益がプラスにならないようになってしまった。この10年でAir busは戦略で失敗しB787を開発したBoeingは技術で失敗した格好となっている。いずれにしても、サイズよりも燃費と柔軟性が重視される時代になっている。