地政学の本はやっぱり面白い。意外だったのは日本が長期的には復活してくると見ている点だろうか。人口構成による移行期が終われば再び地政学的見地から復活して当然と見ているのかもしれない。
確かに海軍力という点から見れば日本が少し復活したとしても、たとえだいぶ離されていてもアメリカの次に来る可能性はありそうで気になるかもしれない。中国もロシアもシーパワーではない。
アメリカとイランの和解をずばりと当てたのも本書の価値を上げている。トルコが隆盛してくるという点も見逃せない。その他、歴史や深い洞察も一杯あったがすべてをまとめきることはできなかったので日高義樹風にまとめてみた。やっぱりこれくらいの解像度でまとめるのが丁度良いのかもしれない。
1.アメリカの次の10年の戦略は勢力均衡
対テロ戦で手を広げすぎた。資源は有限だ。
2.イスラエルとは距離を置く
イスラエルはエジプトと結んでいる限り安全保障上の問題は無い。冷戦下での対エジプト、シリアに対する必要性はなくなった。むしろ強大化に目を配るべきだ。
3.パキスタンを支援しインドの勢力均衡を図る
4.イランとは和解すべき
イラクが無力化したため勢力均衡を図ることができない。またトルコとイランが手を結びアラブ世界を支配しないようにする必要がある。長期的にはトルコがイスラエル、イランに対抗できる存在になる。
5.ロシアとドイツの接近を阻止するべくポーランドを支援する
ロシアは長期的には衰退するが当面は大きな脅威だ。
6.ドイツとフランスを分裂させること ただしコストはかけない
ドイツは高齢化と労働力不足からロシアに接近する。EUが国際舞台の主勢力になるような、多国民国家になることはない。
7.東アジアでは時間稼ぎし関心を逸らすこと 日中関係には関わらない
アメリカはロシアと中東で手一杯なので、東アジアに対処する資源はない。
友好関係を維持している間は海軍力を増強する意欲をなくす。また日本もシーレーン確保の観点からなにがあっても米国からは離れない。完全雇用は維持できなくなる。中国を分裂させると日本が地域覇権国になるので気を配る。長期的には日本は再軍備化する。
9.中国は少なくとも次の10年は弱体化する
輸出先としてアメリカと関係を切ることができない。中国海軍がアメリカや日本と対決できるようになるにはまだまだ先だ。
10.オーストラリア、韓国、シンガポールとの友好関係を維持する
この三国は日本との戦争になった際に重要な同盟国になる。しかしオーストラリアは西太平洋の強国がシーレーンを掌握することがあれば取引に応じる可能性がある。
11.ブラジルとは友好を保ちつつも、これに対抗する唯一できるアルゼンチンを強化する
12.メキシコでは移民や麻薬で失敗した振りをする
アメリカはメキシコから流入する低賃金労働者から多大な恩恵を得ている。移民を防ぐ振りをしながら引き続き失敗することが必要である。麻薬も同様。ただし長期的には国境地帯での人口構成が変化することがリスクだ。
13.アフリカは放っておく
北アフリカ以外は国民国家ではないので、今後も国民国家が形成される過程としての戦争は続くだろう。
14.今後10年は技術による生産性の著しい飛躍はない
15.21世紀も大規模戦争が起こる
アメリカ海軍はアメリカの戦略基盤であり、僅差で宇宙部隊が続く。次は偵察衛星が対艦ミサイルを誘導し、その後はミサイルそのものが宇宙に配備されるだろう。