2013/07/15
零戦の遺産 堀越二郎
風たちぬ対策のために、堀越二郎著の『零戦の遺産』を読みました。
零戦の技術的な側面やそれらが実際どのように運用され、評価されたのかについて書かれた本です。
私生活な部分は記述されていなかったので、映画対策になったかは微妙ですが、漠然と知っていたものが整理されたのでとても面白かったです。
**九六式艦上戦闘機の先進性
零戦が常にクローズアップされますが、設計者であり著者でもある堀越二郎はそれに先駆けて作成された九六式艦戦こそが世界水準を上回った画期的戦闘機だとしています。
世界の艦上戦闘機の常識が複葉機であった時代に、全金属単葉戦闘機や翼端ねじり下げなどの技術、最適と思われる他社製エンジン(中島)を採用し高い運動性能と長い航続距離を獲得する事になった経緯が語られています。
このような特徴を持つ九六式艦戦は日華事変に投入され、それまで戦闘機は防御力であるという概念から、広域制空権や長距離侵攻といった戦術上の革新を日本にもたらします。
**非力なエンジンと防弾性能
そのあまりの強さから敵国からは決して戦闘状態に入ってはいけないと畏怖された零戦ですが、アリューシャン列島に無傷の零戦が敵の手に落ちてしまい弱点が露呈する事になります。
結果、1000馬力という非力な零戦に対して2000馬力3000馬力を要するアメリカはその速度と重さを生かした戦術に採用する事になり零戦と戦う方法を身に付けます。
戦後日本で防弾性能が弱い零戦は、人命軽視の象徴だと言われる事もありますが、それはまずもってして1000馬力程度しかない発動機による制限によるもので、しかも戦闘機においてはその能力さえ上げれば防弾より優るという考え方もあったようです。
また日本は中国戦線では零戦が文字通り無敵であり、防御面について必要性を認められなかった点も考慮する必要があり、また燃料タンクの防弾を最初から考えいたのはアメリカのみであったと述懐しています。
**重点主義の欠如
本書の中で著者が何度も苦言を呈しているのが重点主義の欠如です。
イギリスは開戦から終戦までスピットファイアほぼ一本で改良を重ねたのに対し、日本は戦中にかえって試作機が頻発することにより、技術者の分散や製造ラインを混乱させたとしています。
こういった部分は外から数字を見ているだけだとなかなか解らない部分です。
**引用
研究意識をもって危険界に足を踏み入れとき、高価な代償と引き換えに、それまでの未知の領域が既知の領域に入ることが少なくない。
テクニックや規格は設計をしばるものではなくて、設計道具として使いこなすのが、設計者の務めであると考えた。
ここらへんは色々な精神の総合技ですね。素晴しい。
**感想
零戦が強かった事は知っていましたが、ダーウィン上空で一方的にスピットファイアを撃ち落していたエピソードを読むと想像以上に強かったんだなぁと思い知らされしました。
航続距離の長い艦上戦闘機が迎撃に特化した戦闘機に勝つというのは確かに一世代先を行っていたのだと思います。
また本書の中で苦しくなった後も、燃料タンクの防弾と火力の増強があれば未だ戦える声が前線からあったというエピソードから、エンジンさえあればという著者の気持ちも伝わってきました。
それから設計という陽のあたらない分野ではありますが、そこでのテストパイロットの献身や判断、毅然とした態度を取った上司のエピソードなど技術分野でもきちんと語り継ぐべき人物のエピソードが語られているのも印象的です。
亡くなった人達の声というのは当たり前なのですが、誰かが伝えないと伝わらない部分なんですよね。特に本物の人物であるが故に先に亡くなるという点はありますし。たまに入るこういった人物評は本書の魅力の一つです。
零戦あってこその太平洋戦争と言われるくらいなので、大局だけでなくディティールとしの戦史を読む価値はあると思います。
**メモ
零戦の生産台数は約10000機。2番の隼は5700機。3番は疾風の3500機。
エンジンは上記から採用され
瑞星 : 875馬力 526kg
栄 : 950馬力 530kg
金星 : 1075馬力 560kg
アメリカのF6Fのエンジンは2000馬力1000kg
ドイツのFw190のエンジンは1550馬力1000kg
平時の民間需要の差がこのような数字になって表れたようです。総力戦が垣間見られます。
**JPMorgan、住宅ローン関連利益に警鐘
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