2014/03/31

なめらかな社会とその敵


高度化した情報技術を使って、複雑な世界を複雑なままに生きることができるような社会はデザインできないか、という問題意識のもとにいくつかの具体的な施策を提案している。

考えてみると現代採用されているシステムは民主主義にしろ貨幣制度にしろコンピュータが登場する以前に考案されたもので、大雑把にいえば王様の時代から市民の時代へ移る過程で生成されて現代に至るが、それらの制度疲労は明らかになっている。

ここにコンピュータという視座を導入することにより、世界はまだまだ変わりうるという事を見させてくれるという点だけでも本書の価値はある。

グーテンベルグの活版印刷の発明を待って時代が、システムが変わったように、コンピュータの技術によってシステムに変化が起きても不思議ではないどころか、簡単な論理的帰結とも言えそうだ。

伝播投資貨幣

解りやすく言えば企業の連結決算制度を人に適用したものとして考えることができるかしれない。

それぞれ有限な自分株を発行し、株価はそれぞれの貢献度に相当するとする。この場合購買力は自分株×株価になる。このとき株価は複雑な株の持ち合いのネットワークの中で自動的に計算される。

企業に勤める際はその企業に自分株を貸し与える格好になり、その貢献度に応じて株価が決定していく。死んだ人の貢献度は時間の関数として徐々に0に近づくようにし自然回収を行う。

特徴として挙げられるのは、貢献度に応じて購買力が与えられること、超過利潤が発生しないこと。自分という存在の価値もまた多くの人の貢献から成り立っていると意識できることなど。

★★★

生産性への影響や購買力がどのように分布することになるのか等をはじめとして色々な問題点も指摘されているようだが、それはともかく現代貨幣制度とは違った形を考えることができると提示してくれているのが大きい。

伝播委任投票システム

現代の間接民主制は委任の関係が多層的ではあるが、ダイナミクスが決定的に欠けている。ここでダイナミクスを導入するためにネットワーク型の投票システムを考える。

具体的には1票を0.6票と0.4票といった具合に分けて投票を行えるようにする。そしてその投票された人もまた他人に投票をしたとすると、その時最初の票もそれに応じて伝播していく格好になる。

例えばAさんがBさんに0.6票を投票し、BさんがCさんに0.2票を投票したとするとAさんからCさんへ0.12を投票したことになるといった具合だ。

★★★

貨幣制度よりはこの投票システムの方がより現実的かもしれない。

コンピュータ技術だから出来るとしてはさらに、投票や委任関係を時間によって減衰させたり、議題そのもにも適用して議題ごとの重み付けができる点、自動化や閾値によるフィルターをかけられるなど色々な事に応用できる。これららは現代的な枠組みでは想像することすら無理な話だ。

個人的にはこのシステムは独裁制から間接民主制さらには直接民主制までを包含できる点に感激した。ローマは平時は民主制だったが戦時も場合によっては独裁官を選び全ての権力を任せたし、現在の米国も戦時になると例え大統領がブッシュであろうと普段とは違う形に変化をする。

どの制度でも利点欠点があるがこの伝播委任投票システムを使えば、問題や環境に応じて制度を選択できる。なんとひとつの答えとしては適宜使いこなせばいいだったとは!著者も書いているように伝播委任投票システムは制度のメタシステムだ。

伝播社会契約システム

法律は国家と国民の契約であるが、この形式としての法律は果たして必要なのか。国家同士のピアな契約の中から類似の現象を生成することを考える。

執行を司る官僚機構は法律というある種のプログラムによって書かれた内容を実行する存在である。したがって効率性や正確性は法律の自動実行によって飛躍的に向上するし、法律の自動実行がもたらすのは、官僚制という自立的な執行機関を交換可能にすることになる。

伝播し構成された社会契約を誰がどこまで書き換えてよいのかということさえも、契約で記述すべき範囲内とすれば、持続する社会契約ネットワークと、死滅する社会契約ネットワークの両方が存在する事になる。社会契約のうち、変えてしまっていいものと、できるだけ不変にしておいたほうがいいものが分離していく。

執行するまで保証する情報技術が生まれることによってはじめて私が政府であるといえるような構成的社会契約が実現可能になり、社会契約は実際に行われる契約になる。

★★★

当たり前だがここでも結構大胆である。官僚組織は仮に直接民主制であったとしても間接化する効果がある。ここに裁量の余地があるのだから、ここを自動実行してしまう。こうなると市民が使っていた官僚が悪いという口上も防がれるので当事者意識が向上するかもしれない。

まとめ

Amazonのレビューにある通り行列計算の具体的な部分を本に収めるのは読みづらく、まるで論文を読んでいるような気にさせられる。

しかしだからといって本書の価値がなくなる訳でもない。先端の世界で考えられていることを幅広く紹介してくれる本はやはり必要だからだ。

また日本であってこれくらいのことが書かれるのだから、海外、とりわけ米国などではこういった研究がより進んでいるのだろうと思うとちょっと羨ましい。

『アルゴリズムが世界を変える』という本やビットコイン、電王戦でのプロ棋士の敗北、あるいは自分の領域でいえばHFT(高頻度売買)やプログラムトレードなどコンピュータが作り出す世界というのは確実にそこまで来ている。

LINEなどで人間がコミュニケーションをとっているその裏側で、より大きな潮流が流れているのを改めて感じざるを得ない。

**NY Timesの編集長がBloombergを批判

Bloombergが商業的観点から中国の調査記事について考え直さなくてはならないと発言したことに対して。NY TimesもBloombergも共に中国高官が私腹を肥やしている事を記事にし中国当局からペナルティーを与えられている。両社のジャーナリストで中国へのビザを与えられる者は少なく、またBloombergは2012年の習国家主席の富について言及して以来、その端末契約数が減っている。

**Candy Crush SagaのKing Digitalの上場初日は-13%

モバイルゲームのKing DigitalがNYに上場し5億ドルを調達した。しかしその初日は-13%となりIPOの初日の下落率としては2009年以来の大きなものとなった。この下落は新興企業が上場する前に既に高値にあるのでは、という新しい懸念を起こさせる。今年はヨーロッパでもJust Eatsが14.7億ポンドを調達し上場するのが予定されている。

**IPOマーケットは生き返ったがまだ本調子ではない

世界のIPOマーケットは既に380ドルとなり去年の2倍の規模に達している。去年はtwitterが注目されたが今年は中国のAlibabaの上場が注目されるだろう。しかし現在の状況は中央銀行の金融緩和に支えられている。また特定のセクターにのみ集中するのも普通ではない。1996年には700社が上場したが2014年は200社が見込まれている。これは1社あたりの規模が大きくなっていることを示している。

**サウジアラビア情勢

サウジアラビアはムスリム同胞団を禁止する一方で、アラブ首長国連邦とバーレンの三カ国で湾岸職の中で唯一の伝統的なイスラム国家のカタールから大使を引上げた。これにはアラブの春で威力を振るったイスラムの影響を排除し、アラブの春の前の安定した状態へと戻した意向と、米国がイランと接近しているなども影響している。

2011年のエジプトの際は世俗の軍に資金提供をし安定を図った。カタールへの要求はムスリム同胞団の唯一の露出場所であるアルジャジーラの抑制だが、アルジャジーラはムスリム同胞団にコミットしている訳ではないとして拒否している。

イランの核協定を巡っては米国との溝が明らかになり、シェールガスなどによる石油の中東依存も終わりになることなどから、これまでの米国との特別な関係が終わることを懸念している。

国内でも90歳になるAbdullah王は権限を移譲しだしたが、その弟もまた同様に危ない健康状態でり、何人かの王子と側近に権力が行っているが、彼らはより妥協の無い政策を進めている。

結果として中東にはサウジアラビアとUAEを軸とする陣営とカタールとトルコを軸とする陣営の二つに分かれつつある。