2014/04/01

豊島七段の勝利について思ったこと

3/29(土)に行われた電王戦第三局は豊島七段が古豪ソフトのYSSに完勝した。人間が連敗していたので、本人のみならず将棋関係者、ファンもみな安堵したのは間違いない。

ここではその勝ちの裏側にある考え方や努力について感じたことをまとめてみたい。また最初に豊島七段についてどうして将棋ファンが固唾を呑んで注目をしていたのかについても簡単に述べておく。

将来の名人候補

豊島七段は1990年生まれの23歳。竜王戦は1組、順位戦はB級1組に所属し、2009年に最多勝利賞、勝率1位賞、2011年に最多勝利賞を獲得している。

順位や成績だけを見れば他に人はいないこともないが、23歳という年齢ということを考えると様相が全く違ってくる。

将棋界に名を残す人というのは若い頃から強い。それは羽生や谷川、渡辺、加藤といった四人の中学生棋士が若い渡辺を抜いていずれも名人にになっていることから明らかである。その渡辺にしても既に竜王戦を9連覇するという偉業を成し遂げている。

こういった系譜に名を連ねるだろうと言われているが今回の豊島七段だ。タイトル戦は1回と出場回数はまだ少ないが、棋士の格を決定付ける順位戦ではB級1組に所属し、今回も昇級争いを演じた。来年のA級入り候補筆頭なのは間違いない。

確実に次世代の将棋界を担う人物がもしコンピュータに負けたら、ということを考えると関係者やファンの心情を理解できるてもらえるのではないだろうか。

コンピュータ将棋に対してどう立ち向かうか

今回の電王戦では秋口くらいより実際に戦う対局ソフトが棋士に配布され、対コンピュータ将棋を練習できるというレギュレーションになっており、対局する棋士は具体的な対策を立てることが可能となっていた。

ここでインタビューや解説から窺えるは豊島七段がコンピュータの中盤は非常に強いと判断していたということだ。

終盤はコンピュータが一般に強いと言われているが実はそれは長手数ではないという前提条件付きである。

コンピュータが詰みを間違えないのは膨大な量の読みをこなしているからであるが、その一方で20手や30手という必然の手順が続くものの長い手数となると計算量が増えてしまい計算することができなくなってしまう。一手ごとに指数関数的に指してが増えてしまうからだ。

これに対し中盤はその漏れのない読みが強さを発揮しやすい。第一局の菅井五段ではその強みが存分に発揮されていた。

今回豊島七段は横歩取りという戦法を採用したが、この戦型は序盤から激しい戦いになり易く、一手にミスが直接負けに繋がる将棋と言われている。しかし裏を返せば中盤が省略されているとも言え、ここに対コンピュータ将棋の活路を見出した。

一手一手に時間を費やせる短手数の将棋の方が人間の集中力も持つという、実践的な部分も含んでいたようだ。

どうすれば勝てるかという一点を、自分の主観は横に置いて追求した点に豊島七段の柔軟性を見ることができる。羽生ももしコンピュータ将棋との対戦があるとしたら、1年はその研究に費やしたいと言っていたが、それは勝ちに拘るならそれ相応の対処の仕方をするという事の表れではないだろうか。

こういった点が強い人は強い。

練習量について

局後のインタビューで練習量について聞かれていたが、これがまた凄い。

局数は途中でやめたものも含めて1000局近く。3月は週1の研究会と対局以外の日は1日10時間指していたと言う。

10時間である。週7日のうち5日はコンピュータ将棋を10時間研究をする。一つのことを考え続けられるというのが棋士の傑出した能力だとは思うが10時間は若さがないと出来ない芸当だと思う。

この10時間というのを支えたのは好奇心なのではないかと推察する。勝つためのアイデアを考え、実践しうまくいかいかないかを確かめる。失敗したら改善をするかそのアイデアを捨てる。上手くいったら本当に継続的に有利になるのかをまた確かめる。

こういった具合にやっていったのではないだろうか。その中から対策がいくつか出来上がったのだろう。インタビューアに不安は無かったかと聞かれ、最後に5時間の持ち時間で三局指し全て勝っていたので、そこは大丈夫であったと言っていたが、これこそが準備のなせる事だ。

周囲は天才棋士とか将来の名人候補と囃し立てるが、裏にはこういった量が支えている部分がたぶんにあるということを改めて知らしめさせてくれる。

強い人が10時間も研究してたら付け入る隙はそうは簡単にはない。凡人の自分などが怠けていたらその差は開く一方だといことを強く感じてしまう局後のインタビューであった。

矜持と誠実さ

このように豊島七段は研究をしっかりして勝ったというのが一般的な見解になっているが、それについて反論とはいわないまでもきちんと物事を正確に伝えたいという意思が見えた部分にも惹かれた。

具体的には▲21角までは研究でも指していたが、その後の△31銀は一局しか経験していなく、それも△99角成以降は新しい局面だったと発言していた。

そこには研究だけ突き詰めて勝ったのではないという一種の矜持とともに、事のあらましを正確に伝えようとする、一種の研究者としての誠実さを感じることが出来た。

どうしても周りは結果だけを見てしまいその過程も簡単に物語に載せてしまう傾向がある。でも実はそういった簡単な物語はないんだよというのを、一言添えてはっきり述べていたのがとても印象的であった。

羽生や森内ならばこういった言葉を呑みこむだろうし、渡辺も最近は鋭い言葉を使わなくなっている。こういった所の応接はポジションが人間を作っていく部分なのだろう。

タイトルを取り将棋界を間違いなく背負っているという事を意識する前の段階なら、青年はこれくらいの気概を見せておくのは大切なのだと最近良く感じている。

いずれにしても勝利という結果が人間側に残ったのは今後の電王戦の継続という観点から考えてもとても大きなものだったし、単純に嬉しい。


**人民元の下落

人民元は中央銀行により1日の値幅が上下1%ずつのレンジに入れられ、強い経済や資金流入により人民元高の一方の賭けと思われた。しかし対ドル6.14と-1.4%と去年の夏以来の水準となり話題を集めている。市場では中央銀行によって注意深く誘導されているとの解釈が一般的だが、資金流出の可能性も指摘されている。

**NYは最終局面に入ったか

成長企業への投資や大型M&Aが活発になる一方で、バリュエーションは高いのか標準なのかといった議論が広くなされるよになっている。これらはバブルの最終局面でいつも見られることだ。既にS&Pは高すぎるとし、売りを考えている向きもある。