2013/08/16

マーケット教室 ジャック・D・シュワッガー


トレーダーの中で名著とされている「マーケットの魔術師」シリーズの著者ジャック・D・シュワッガーによる新刊本。主に投資に関する統計を取り扱っている。

著者が現在ファンズ・オブ・ファンズ(ヘッジファンドをまとめたファンド)で仕事を行っているためか(その事は明記している)、分散の強調とその結果としてのファンズ・オブ・ファンズへの勧めと思われる部分を感じるが、かといって内容が嘘ということもないので、使えそうなところは使えば良いと思う。

これから投資を考えている人にとっては多少難解かもしれないが、多くのファンドやそれに伴う情報は非常に杜撰であるのが現状なので、目を通しておくと騙されにくくなるだろう。実際に投資をしている人にとっても目新しい部分はあると思う。

以下に主な主張点や内容を記す。

1.平均以上のリターンが欲しければリターンが低かったあとにするべきだ

2.リスクを不完全に測るくらいなら何も測らない方がまし

3.重要なのはリスク・リターンレシオ

4.ポートフォリオのボラティリティの低下は、複利のリターンを高める

5.レバレッジ型ETFは構造的に指数よりも大幅にパフォーマンスが低下する

6.相関係数は因果関係があるという証明にはならない

7.分散は10銘柄以上に行ってもまだリスクを大幅に減らすことができる

8.ヘッジファンドについて


**平均以上のリターンは長期間リターンが低かったあとで

最上位1/4と最下位1/4を抽出し翌年のリターンを比較し(1872~2011のS&P)その結果として前1年、前3年、前5年の平均いずれも最下位1/4が上回っていることを示している。

直近で賑わった銘柄は次はあまり盛り上がらなく、長年放置されてた銘柄の方が上昇幅が大きいという実体験と一致する。


**リスクは測らない方がまし

不確実なものに対して数式でリスクを把握しようという試みは強引な仮定を置くことになるので失敗する。

LTCMは流動性を無視した数字、リーマンショック時の住宅ブームなどは統計の背景が変わっているにも関わらず従来どおりの統計を使ったこと。仮に新しくしようとしても今度はサンプル数の不足により適用できない。リスクについては常識を働かせる方が大切だろう。

スピードメータが付いていないと、どれだけスピードを出しているのか解らないので、それだけ注意深くなるだろう。だが、メーターを信じて乗っているのに、実は大幅に低い数字しか表示していなければ、事故に逢う可能性が高くなる。


**重要なのはリスク・リターンレシオ

ボラティリティの低い安定したパフォーマンスには心動かされるが、その実は過大なリスクを取っていることの裏返しであることも多い。相場が下落した時の挙動をみるべきだ。


**ポートフォリオのボラティリティ低下は、複利のリターンを高める

50%失ったあとに元に戻すには200%必要。10%であれば11%で済む。このことから、ポートフォリオのボラティリティを減らすことはリターンの増大に繋がる。言い換えればリターンを増やしたければ下方へのボラティリティを減らすこと。


**レバレッジ型ETFは構造的に指数よりも大幅にパフォーマンスが低下する

指標に対して2倍3倍の値動きをするように設定されているETFは、毎日のリバランスする性格上ボラティリティもそれに比して大きくなる。

ボラティリティの増加はパフォーマンスに悪影響をもたらすことからこれを買ってはいけない。レバレッジをかけたければ先物を買ったり、ディープインザマネーのオプションを買えば良い。


**相関係数は因果関係があるという証明にはならない

ヘッジファンドの数とワインの消費量の相関係数は0.99であることが例示されている。もちろんそんなに強い因果関係は無い。また短い期間ではサンプル数が少なくみかけ以上の相関がみられることも多い。ファンドの運用成績を見る際には注意が必要だ。

相関関係については多くの人が誤っている使用している例が多い。この前のアベノミクスの著者もその典型例だ。サンプル数が少ない、期間が短い、因果関係は不明瞭、都合の良いデータを持ってくるなどなどインチキ、あるいは無知で用いられている事が非常に多い。


**分散は10銘柄以上に行ってもまだリスクを大幅に減らすことができる

分散の効果は数学的にも証明されている。特に資産市場では大きなショックを和らげる効果もある。ただし効果を正しく用いるためには、分散している資産間の相関が低いことが求められる。相関が大きければ分散をしてもリスクを減らした事にはならない。

特に昨今の相場はリスクオン・リスクオフといった具合に各市場間の相関が強まっているのでしっかりとした分散をするのには苦労が伴う。また相場環境が変化すれば相関係数も変わっていくので事前にそれを想定しておくのは現実的にはなかなか難しい。


**ヘッジファンドについて

管理手数料と成功報酬があり、後者は前回の成功報酬が支払われた時のNAV(純資産価値)のピークを上回った部分についてだけ成功報酬を請求される。

投資家の条件は有資格投資家(100ドル以上の純資産か過去2年間の収入が20万ドル以上ある者)か、適格投資家(500ドル以上の純資産がある者)。前者は99人まで後者は499人までに制限されている。

解約は四半期どころかさらに長期になるケースが多い。またロックアップ条項(投資してから規定の期間は解約できない)、ゲート条項(総解約額が限度額を超えると投資家の解約を一時中止にできる。年単位で長期化する)がある。ファンズ・オブ・ファンズではこれらが相対的に緩い。

種類としては下記のようなものがある。

・合併アービトラージ
・転換社債アービトラージ
・ペアトレード(スタティスティカルアービトラージ)
・債券アービトラージ
・クレジットアービトラージ
・キャピタル・ストラクチャー・アービトラージ
・ディストレスト
・イベントドリブン
・新興市場
・グローバルマクロ
・マネージドフューチャーズ
・ファンド・オブ・ヘッジファンズ

ヘッジファンドのパフォーマンスは個々のもりも、その用いている戦略によって主にパフォーマンスが左右される。大型よりは小型ものがパフォーマンスが良いというのも統計上からは言える。

ヘッジファンドのパフォーマンスは生き残りバイアスを含めて様々なバイアスがかかっているので高めに数字が出ていることが多い。その点においてファンズ・オブ・ファンズの指標の方がより正確である。


**エジプト騒乱再び

エジプトの治安維持部隊がMorisi前大統領支持者のキャンプに侵入し149人の死者と1403人の負傷者を出した。エジプト政府は1ヶ月の非常事態宣言と10日間の外出禁止令を発布した。ノーベル平和賞受賞者のElBaradeiはこれに抗議し副大統領の職を辞した。米国は基本的人権に配慮するように声明を出し、トルコは国連安保理の開催を求めた。

**中国のソーシャルメディア事情

TencentのメッセージアプリWeChatがTwitter型のSina Weiboをリードしている。アクティブユーザーの数はWeChatは前四半期に比べて21.3%増えているのに対しweiboは8.4%、消費時間はWeChatは5億時間とWeiboの3倍とリードしている。WeChatはまたSNSのQQとゲームを開始している。


**FitchとFed、ETFに警鐘

債券急落の調査をしていたFitchはそのレポートの中で、社債ETFやレバレッジドETFはボラティリティの拡大に寄与しているとし、2兆ドルとなったサイズでのストレステストは行われていないとした。またFedも長期的には市場の安定性を損なうとし、制限、休止、取引の追跡を行う必要があるとした。

**日経平均は297円安の13752円

前場上がるも、午後に法人税減税は効果が薄いという麻生の発言により下落。S&Pは一ヶ月ぶりの安値、金利は2.8%まで上昇。だいぶ悪い足が示現した。JNJ,WMT,V,AMZNといった好調だった銘柄が軒並みチャートを崩す。IBMも週足で割ってきた。エマージング系のETFは意外に落ちていない。