2013/11/14

劣化国家 ニーアル・ファーガソン(3) 金融業界の規制と法の執行


第二章では、金融業界とその規制について述べている。

要点としては、複雑な金融界の脆弱性を軽減するには、規制を簡素化するとともに、その執行を強化するということ。

リーマンショックが起きたのは複雑すぎる規制に加え、悪さをしてもそれを上回る利益があったからだ。しかしこれは、法の支配が適切に行われていないことを示す。法は法律家の支配に成り下がったのだろうか。これが次の第三章のテーマになる。


銀行規制の時代には、めざましい経済発展と呼べるようなものは何もなかった。

1970年代から学ぶべき教訓は、規制緩和が悪いとうことではない。まずい規制が、まずい金融政策と財政政策という背景で行われた場合にはとくに、悪いのだ。そしてこれは、現代の危機にもそっくりそのままあてはまる。

2007年に始まった金融危機は、まさに複雑すぎる規制に原因があった。

第一に、大手上場銀行の幹部は株主価値を最大化する協力なインセンティブを与えられていた。自社株と株式オプションが収入の大部分を占めていた。バーゼル銀行監視委員会の1988年の合意は、銀行が自己資本の規模に比して、膨大な資産を持つこと、国債など、低リスクと分類された資産に限って、認めていた。

第二に、バーゼル規制の改正により1996年以降は、銀行が社内のリスク評価をもとに、必要自己資本額を事実上独自に設定できるようになった。

第三に、世界の中央銀行は株式市場を下支えする介入はしても、資産バブルを収縮する介入はしなくなった。いわゆるグリーンスパンプットだ。

第四に、アメリカ議会は低所得者層、とくにマイノリティ層の持ち家率向上を目指す法案を可決した。これは社会的・政治的な理由から望ましいこととされた。しかしこれによって住宅ローン市場は政府支援機関のファニー・メイとフレディ・マックによって著しく歪められた。

・規制緩和悪人説と一致するのは、規制対象外だったクレジット・デフォルト・スワップをはじめとするデリバティブ市場だけだった。

危機の鍵を握っていたのは銀行であり、その銀行は規制されていた。

真に問うべきは、最も有効に機能するのはどのような金融規制かだ。

精神分析は心の病を治すと謳いながら、実はそれ自体が病を引き起こしている。複雑すぎる規制は、治療法を装った病そのものだ。

法の支配には敵が多い。その一つが悪法だ。ドット・フランク法は複雑すぎる規制の最たる例だ。

規制のひとつひとつに、意図せざる結果の法則が潜んでいる。

どんなイノベーション(自然界でいえば突然変異)も、環境への適合度によって栄えるか廃れるかが決まるという意味で、自然淘汰にさらされている。

大型の銀行倒産を伴う大恐慌というシナリオと、銀行救済というシナリオとの間で選択を迫られた規制当局は、後者の救済を選んだ。

ドット・フランク法には、次にSIFIが倒産しても、納税者はびた一文払わないことがはっきり記されている。しかし誰が支払うのかについては、歯切れが悪い。

ネットワークは秩序と無秩序の間のどこか、つまりカオスの縁の状態にある。この手の複雑なシステムは、しばらくの間は順調に機能し、平衡状態にあるように思われるが、実は正のフィードバック・ループを通して絶え間なく変化している。だがシステムが臨界に達するときが必ずやってくる。

ほんのかすかな摂動が、穏やかな平衡状態から危機への相転移を誘発することがある。これがとにく多く見られるのは、ネットワーク・ノードが密結合している場合だ。ネットワークの相互関連性が高まると、競合する制約が、みるみる複雑性の大惨事を生み出しかねない。

実際、複雑なシステムには、完全に非決定論的なものもあるという理論家もいる。過去のデータをもとに、将来の行動を予測するのがほぼ不可能という意味だ。

規制の本来の目的は、金融界の森林火災の回数と規模を縮小することである。だが、これまで見てきたとおり、規制はあっけなく逆効果を生じかねない。なぜなら、政治プロセスそのものが、ある程度複雑だからだ。例えば監督機関は、規制される側に取り込まれることがある。また監督機関が職務に必要なデータを、規制される側にと頼っている場合もそうだ。

脆弱の反対は抗脆弱だ。動揺にさらされるとかえって強くなるシステムを、抗脆弱性があるという。要するに、規制はシステムの抗脆弱性を高めるよう、設計されなくてはならない。

中央銀行は危機時には懲罰金利で無制限に流動性を供給すべし。きわめて高い金利で、きわめて多額の資金を貸し付けることが、最善の救済策だ、とバジョットは述べている。しかしこの勧告のうちで実線されているのは後半部分だ。現代の金融システムはレバレッジが高すぎて、高金利に耐えられないと考えられているからだ。

バジョットの他の部分、規制ではなく自由裁量を重視すべし、という勧告もおろそかにされている。彼はなによりも中央銀行が豊富な市場経験を積んだ理事を持つことの重要性を強調した。信頼できる商人は、危険な者たちのいかがわしい評判をつねに把握しており、不正取引のほんのわずかな兆候お見逃すことがないとした。

イングランド銀行が市場金利に目を配り、それに合わせて自らの金利を決定すべきであるという規則は、バジョットに言わせれば常に誤っていた。中央銀行の第一の務めは、公定歩合を利用して、国の最終的な現金準備を保護する事だった。

理論上は大手銀行を細切れにして、レバレッジ比率を劇的に引き下げ、預金金融機関とリスク負担者の相互関係を弱めることができれば、それに越したことはない。

わたしたちにとれるのはせいぜい暫定的な措置にすぎない。大切なのは、最善の暫定措置を見つけることだ。

危機の主な原因はまずい規制だった。だがそれだけでなく、何をしても罰せられないという風潮も、その一因だった。そしてその風潮をもたらしたのは、規制緩和ではなく、処罰が行われなかたっという事実なのだ。

欲深者が詐欺を働いたり、義務を怠ったりするのは、罪を犯しても見つからないか、罰せられないと思っているからこそだ。

アメリカでは、住宅バブルとそれに端を発したもろもろの問題に荷担して刑務所送りになった人達のリストは、笑ってしまうほど短い。イギリスで銀行家に与えられた最も厳しい処罰は、ナイトの爵位の取り消しと剥奪だった。

カントリー・ワイドの民事詐欺とインサイダー取引をしたモジロは、2000年から2008年までの間に同社の株式を含めると総額5億2200万ドル近く、つまり罰金の10倍もの報酬を受け取っている。彼の行為に何も犯罪的なところがないというのは、この領域で刑法が機能していないということだ。

生殺与奪の権限を持つ当局の意に背けば、刑務所行きになるかもしれないという危機感を持たせる必要がある。

規制をただ遵守するより、個人が分別を持って行動することが望ましい道とされたが、それは当局が強力で、重要な規則が成分化されていなかったからこそだ。

複雑な金融界の脆弱性を軽減するには、規制を簡素化するとともに、執行を強化するしかない。

繰り返すが法の支配の最も破壊的な敵の一つは、悪法だ。

劣化国家(1) なぜ西洋は衰退したのか
劣化国家(2) 過剰な公的債務は、世代間の社会契約が破綻していることの症状だ
劣化国家(3) 金融業界の規制と法の執行
劣化国家(4) アメリカは法の支配ではなく、法律家による支配になっている
劣化国家(5) 市民社会と国家
劣化国家(6) 大いなる衰退論からの示唆

**中国共産党三中全会

今後10年の青写真を発表した。1つは価格について市場について、基本的な役割から決定的な役割にするということ。為替や金利の自由化など。2つ目にはこれまで規制されてきた地方の土地売却を緩めるとうことなどが挙げられている。この会は中国の歴史の中で重要な分岐点となっており、1978年には文化大革命を終わらせ、1993年にはWTOへの参加を決めその後の発展をもたらした。

**シェールガスはアメリカ企業を有利に

国際エネルギー機関(IEA)は米国の製造業とその雇用が少なくとも2035年まで後押しするだろうと発表した。IEAによれば2035年まで日本やヨーロッパはガスや電気に関して米国の2倍のコストがかかるとしている。ヨーロッパは市民によりシェールガス開発やロシアとの再交渉に反対されているが、これを進めなければならないだろうとしている。

**SGXとHFT

シンガポールのあまり有名ではないBlumount Group,Asiasons Capital,LionGold Copの3銘柄が価格操縦かインサイダー取引で激しく売られた。それから間もなく、SGXは高頻度取引(HFT)への取り組みを発表した。HFTは2010年のflash crashに見られるように根強い抵抗がある。SGXも一般投資家をHFTに巻き込みたくないが、出来高も欲しいというジレンマに陥っている。香港はブローカーにトレーディングアルゴリズムと顧客がそれを理解していることを求めているが、これは参加者から避けれている。

日経平均終値:14567(-21)
東証一部売買代金:2兆001億
マザーズ売買代金:1099億
最高値銘柄:
売買代金上位:三井住友、三菱UFJ、ソニー、マツダ、パイオニア、太平洋セメント、ラウンドワン、アルバック、日ビルド

S&P終値:1782
S&P売買高:2036812
最高値銘柄:M P PG LOW DDD ADBE
売買代金上位:FB BAC GM SINA