2013/11/15

劣化国家 ニーアル・ファーガソン(4) アメリカは法の支配ではなく、法律家による支配になっている


法律と経済発展の関係をときほぐし、現在は法の支配ではなく法律家の支配であると喝破しています。どんな仕組みも時間が経てば攻略されてしまうということころでしょうか。法からみた一般で言う歴史を見るという視座は面白いですし、おそらく重要な役割を果たしていると思います。


イギリスにおけるビンガムのいう意味での法の支配とは、歴史的発展の産物である。

公的な契約執行機関が、民間部門の富の所在と量に関する情報を公開するようなこtがあれば、国家は、その富の一部またはすべてを奪おうとするかもしれない。したがって国家が法律による制約を受けない場合は、民間の契約執行機関の法が安全だ。

ユダヤ人やスコットランド人のディアスポラ、華人実業家のネットワークがこれにあたる。しかしこの共同体の欠点は、参入障壁を引き上げ、独占することが多いゆえに、結果として経済効率を損なってしまうことにある。だから民間主体による契約執行は、経済が複雑化するにつれて、国家に道を譲ることが多い。

ただし実際に国家に移るかどうかは、私的所有権を尊重するような方法で強制力を用いるよう、国家を制約できるかどうかにかかっている。経済学では、これこそが法の支配の果たす主要な役割であある。人権より所有権の方に重きが置かれている。

アンドレイ・シェライファーは英語圏で発達したコモンロー法制度が、契約執行と強制力の制限という2つの役割を果たす上で、ほかのどんな法制度よりも優れていると考えた。コモンロー法制度は、他の制度と比べて、投資家と債権者に対してより強力な保護を与えると論じた。その結果、資本を持つ人たちが、他人の事業に進んで投資、融資をするようになった。

一連の実習研究で研究者はコモンローの特徴には次のような特徴があることを明らかにした。

(a) 大陸法諸国に比べて投資家保護がより強く、企業がエクイティ・ファイナンスを行いやすい。

(b) 外部投資家がインサイダーよりも保護されている。

(c) 新規企業が市場に参入しやすい。

(d) 裁判所の効率がより高い。

(e) 大陸法諸国に比べて労働市場の規制が緩く、そのため労働力率がより高く、失業率がより低い。

(f) 情報開示義務が広範である。

(g) 債務不履行の際に、より効率的な破綻処理の手続きがある。

コモンローが民間市場のもたらす成果を支援することを目指す、社会統制の戦略を支えるのに対し、大陸法は市場の成果を国家にとって望ましい配分と置き換えようとする。大陸法が、政策施行的であるのに対し、コモンローは紛争解決的である。この差は中世のフランス国王が、イギリス国王よりも特権を強く主張したことに起因する。

フランス風の自由の概念は、建前上は絶対的だったが、実際にはより有効性に乏しかった。フランスは自由よりも公平性を重んじた。この志向が、結果として強力な中央集権国家と脆弱な市民社会をもたらした。

イスラム法はオスマンの経済発展を遅らせる効果があった。

中国は王朝時代に、権力を分散させるいかなる取り決めも行わなかったため、国家行政官が、法の制定、法の実行、紛争解決という3つの基本的機能を含むすべての包括的責任を担った。儒教と道教は法律家を忌み嫌い、その敵対的な姿勢を貫いた。商法は存在せず、裁判官は法律よりも文学や哲学を研究した。彼らは法的裁定よりも妥協を求め、契約執行を民間のネットワークに委ねた。

1854年まで、イングランド・ウェールズ司法部の第一審判裁判所は、全体で15名の裁判官しか置いていなかった。これらの裁判官は、1年に二度ある4週ずつの書いて期間中だけ3つの裁判所に同数ずつ分かれて、ロンドンか巡回裁判所のいずれかで、訴訟裁判を単独で心理した。経済活動のペースが加速するにつれて、下級の県裁判所の活動は増えたが、上級裁判所はこの限りではなかった。

産業革命時代のイギリスの法制度は、明らかな欠点があったのにもかくぁらず、時代の変化に適応する能力があり、現に適応していた。それどころか時代の流れを助け、後押しするような方法で適応することもあった。

ゴフ卿は、判事は先例拘束性の原理の範囲内で行動しなくてはならず、また既存の原則の発展、通常はごくささやかな発展、と見なされるような方法で変更すべきである。法理の接合剤たる先例拘束性の原理が、必要な安定をもたらすのである。

イギリス法制度とその親戚たちに、経済発展に関する優位性を与えたのは、投資家や債権者の扱いにおける機能的な違いではなく、まさしくこの特質であった。

現代の西洋、特に英語圏における法の支配には4つの脅威がある。第一は公民権が公安国家によってどれほど侵略されているのかという問題。第二に、コモンローのフランス化。第三に成文法の複雑さと杜撰さの高まり。第四に法律費用の増大化。

時代遅れの法律を大掃除し、新しい法には必ずサンセット条項(有効期限)を盛り込むべきだいう主張はもっともだ。またあらゆる不測の事態を網羅した、経済の取扱説明書を書くことが、あなたたちの仕事ではないと、議員達を諭す必要がある。何しろ計算できないほど小さなリスクまでも含めようとしているからだ。

規制遵守のために毎年かかる事業コストは1兆7500億ドルにものぼる。これに加え、アメリカの不法行為法の制度のせいで、8650億ドルのコストが生じている。不法行為の制度のせいで、8%の消費税、あるいは賃金に対する13%の課税に相当する費用が生じているという。

アメリカでは1日あたり7800件も起こされる訴訟の費用が、2003年にはGDPの2.2%にものぼった。これはイタリアを除く先進国の2倍以上になる。

ステグリッツは3つの欠陥をしてきいる。金融機関が略奪的貸付に携わることを放任する現行法。これは新しい破産法とともに、パートタイムの年希奉公という新しい階級を生み出した。彼らは生きている限り、稼ぎの25%を銀行に差し出し続けることになりかねない。それから知的所有権があまりにも制約的であること。有毒廃棄物に関する現行法は訴訟費用がその浄化にかかるコストの1/4以上を占めている。

アメリカから事業が出て行った理由としげ挙げら得るのは以下である。政治体制の有効性、税法の複雑さ、規制、法的枠組みの有効性、雇用と解雇の柔軟性。

私的所有権の保護や汚職の取り締まり、組織犯罪の取り締まりなど、法の支配を評価する15項目が世界経済フォーラムの経営者意見調査にある。その中でアメリカは、15項目全部で香港に劣っている。台湾は9項目、中国でさえ2項目アメリカを上回る。ヘリテージ財団の経済自由度指数でも、アメリカの汚職の少なさは21位で香港やシンガポールに大きく水を明けられている。

国際金融公社のビジネスの行いやすさに関するデータでは、アメリカは、納税のしやすさは72位、建築許可は17位、不動産登録は16位、破産処理は15位、事業設立は13位である。

世界正義プロジェクトによる2011年の法の支配指標では、アメリカは、民事司法へのアクセスは66か国中21位、刑事司法の有効性で20位、基本的人権で19位、汚職の少なさで17位、政府権力の抑制で16位、規制の執行で15位、秩序と安全で13位、政府活動の公開性で12位だった。

世界開発指標で、行政制度の質、ビジネス規制環境、所有権と規則に基づくガバナンス、公的部門の管理と制度、公的部門における透明性・説明責任・汚職、のうち4項目以上で途上国の上位20位以内に入っている国は、ブルキナファソ、ガーナ、マラウイ、ルワンダだ。

ビジネス環境の現状を2006年までさかのぼって事業設立と建築許可、不動産投機、納税、物品輸入、契約執行の6つの手続きを完了するのにかかる日数が大幅に減少している国は、減少率順にアフリカでは、ナイジェリア、ガンビア、モーリシャス、ボツワナ、ブルンジだ。新興市場では、クロアチア、マレーシア、イラン、アゼルバイジャン、ペルーの各国だ。

貧困国での法の支配の確立は4段階に分かれて起こると考えられる。暴力の軽減。所有権の保護。政府を抑制する制度。公的部門での汚職防止。この順である。

中国はこの例外に思えるが、多くの学者がいますぐ法の支配に向けて踏み出さなければ、まもなく法制度が足かせとなって将来の成長が大きく阻まれるだろうと警告している。重慶での汚職・暴力追放運動、打黒運動は、中国がいまだ法の支配からほど遠いことを如実に示している。

賀衛方は陳光誠と同様、中国が秩序と動乱の間で振り子のように揺れる歴史から逃れるには、法の支配を実現するしかないと信じている。

マンサー・オルソンは、どんな政治制度も、主に組織化された利益集団によるレントシーキング(特殊利益追求)行動のせいで、時とともに硬化するといった。

アメリカ人にいま見られるのは法の支配ではなく、法律家の支配という似て非なるものだ。連邦議会において弁護士が不釣合いなほど多くの議席を占めているのは偶然ではない。上院は37%、下院は24%だ。

どうやって改革すれば良いか。英語圏であり中国語圏であれ、改革は公的機関の外からやってこなければならない。つまりそれは市民団体だ。

劣化国家(1) なぜ西洋は衰退したのか
劣化国家(2) 過剰な公的債務は、世代間の社会契約が破綻していることの症状だ
劣化国家(3) 金融業界の規制と法の執行
劣化国家(4) アメリカは法の支配ではなく、法律家による支配になっている
劣化国家(5) 市民社会と国家
劣化国家(6) 大いなる衰退論からの示唆

**スマートホーム企業

ニューヨークをベースとするQuirkyが7900万ドルの資金を集めた。QuickyはGEと共同で初のスマートフォン製品を作成し、それは卵が腐りかけているか切らしているかを知らせるものであった。またSmartThingsは物理的なものをインターネットにつなぐキットを開発し、1250万ドルを集めている。今やスマートフォンは誰でも持っており、スマートホームの時期が来ている。

**スペインにデフレの影

スペインの10月のインフレ率は-0.1%と4年ぶりにマイナスに転じた。エコノミストの大半はこれを一時的なものとしているが、今後どうなるか解らない。価格が下がれば実質的な負担は上昇することになり、GDPの2倍ある民間債務が懸念され、また景気の回復もままならないことになる。

**Rolls-Royceが3Dプリンタを採用

ジェットエンジンを作成するRolls-Royceが製作スピードアップとより軽いパーツを作るために3Dプリンタを使うことを発表した。特に宇宙関係のものは潜在的に18ヶ月もリードタイムがあり、仮に一週間でできても充分に速いとしている。現在、BMW、Siemens、GEなども3Dプリンタを採用している。


日経平均終値:14876
東証一部売買代金:2兆5216億
マザーズ売買代金:880億
最高値銘柄:
売買代金上位:

S&P終値:1790
S&P売買高:2182170
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売買代金上位:CSCO AMZN IBM GM QCOM