2014年2月18日火曜日

アルゴリズムが世界を支配する


ページをめくる度に興奮が続く。そういった本に巡りあったとき読書をしていて良かったと感じるが、本書はまさにそういった一冊といえる。

アマゾンのおすすめやFacebookの広告など、普段何気なく触れているがその背景で動いているアルゴリズムはどのようなものなのか、どのような経緯によって生まれたのか、あるいはどのような分野で適用され今後どのようになっていくのかなどが綴られる。

当初は金融市場におけるアルゴリズムに限定して書く予定であったが、取材を始めてもっと広い分野で適用さているのがわかり本書のような構成となった。

前半は金融市場の部分で素養がない人は若干読みづらいかもしれないが、アルゴリズムという点で述べれば金融市場こそがアルゴリズムの世界を引っ張っていたことが良く解る。

そして金融危機によって人材が流出し、そこで磨かれたアルゴリズムが一般の世界に適用され始めているのが現代になると言えそうだ。

■ウォルストリートにおけるアルゴリズム

アービトラージ。日本語にすれば裁定取引という言葉がある。これは同じものが違う価格で取引されていたら、一方を売り同時に一方を買えばその瞬間に利益が確定する取引の事だ。その価格の歪みを発見できれば、事実上ほぼノーリスクで利益が手に入る。

米国ではこの取引を情報処理によって行うことが1970年代に一人の男によって始められた。まだインターネットもなく、価格も場立ち(TVでみる手を振っている人)で決定されていた時代だ。そこをあの手この手で今から貧弱なコンピュータで処理できるようにされていく様が描かれている。

現代ではこの争いが1000分の1秒の単位で争われるようになっている。その中で面白いエピソードがシカゴとニューヨークを最短距離で結ぶ話だ。

それまでの光ケーブルは鉄道の下を走っていたが、それに対し文字通り直線距離で結ぼうという会社が出て、それを実際にやってしまった。

その結果1000分の4秒短縮できたという。光は減衰しないが反射する分だけ余計な距離を進む。そこを直線距離にすると短くなるというわけだ。

頭が良いがある種のバカバカしさがあって面白い。もちろん動くお金は巨額だから大真面目なのだが、ここには男のロマンがあるような気もする。

現在アメリカの市場では60%の取引がプログラムによって行われるようになっている。

■音楽、ポーカー、CIA、医者もアルゴリズムに取って代われる可能性がある

だがそれ以上に、金融ではない世界への適用事例が非常に面白い。

一般的に音楽のような人間の感性に訴える分野はコンピュータが入り込みにくいとされている。しかし実際にはこのような分野にもアルゴリズムは適用され、機械学習型のアルゴリズムが自ら作曲をしそれを人間が喝采をもって迎える事態が起こっている。

アマチュアの作曲家にとってもこの現象はチャンスで、自らが作曲したスコアをアルゴリズムに判定してもらうことで、どのくらい人気を得そうかということが解るという。

音楽をサービスする側も数多くの中からある特徴を持った曲を選別するという作業に、このようなアルゴリズムを採用することによってより多くの機会を得ることになる。

CIAの話なんども面白い。従来は国の文化や慣習といった文科系の分野がその国の今後を占う上で大事だとされてきていたが、ここでもアルゴリズムの方が優勢になってきている。

そこで採用されるデータは、各プレイヤーのモチベーション、影響力、関心の程度だ。従来が『なぜそうなったか』についての情報を集めるのに対し、アルゴリズムは過去ではなく現在から将来を予測する。

医療の世界でもアルゴリズムを採用すれば精度があがることが実証的に解っている。一般的な風邪などは、はい、いいえといったことで解かるし、難病の類もアルゴリズムの方がデータベースを駆使できる分だけ指摘しやすいし、人間が見落としがちな部分もアルゴリズムであれば過去のデータと参照して見落としにくい。

■カスタマーセンターにおけるアルゴリズム

この章は特に面白かった。NASAは宇宙上での人間関係がミッションに与える影響が大きい事を認識し、人の組み合わせにも注意を払ってきた。それがいま民間に転用されている。

人間はその語彙ではなく、文の組み立て方によってどのような思考体系を持っているか判断できるという。そのタイプは6つだ。

これをカスタマーセンターに適用させる。同じタイプを持った人に対応させると、対応時間も顧客満足度も上がるからだ。

カスタマーセンターは実は巨大な市場で、米国の雇用の第三位にあたる400万人、AT&Tだけで10万席あり1年あたり40億ドルの規模があるという。

もしコールセンターがこのようなアルゴリズムで効率化するとすれば、それが雇用に与える影響が大きいのが良く解る。

それにしても文章の組み立てによって、どのような人間なのかが解るというのには大興奮した!

■今後の人材は

このようにアルゴリズムは広い業界に渡って適用され、また効果もあげている。しかしその一方で、米国では理数系を専攻する人の数が減っている。

またその理数系を志望しても理数系に課せられる授業内容や単位によってそのうち40%が非理数系に流れてしまうという。

人は自分がよく理解しているものは教えられない。プログラムを自ら書ける一方で、アナログの極みともいえる高校の授業で教えられるような人材は極端に不足している。

理数系で天才である必要はないし、テストで良い点を取る必要もない。実際、理系はGPAが低い傾向があるという。しかし本当に大事なのは実践する事こと、そのプロセスを学ぶことに時間をつぎ込める人間が必要だ。プログラムを書ける人間にとって、未来の可能性は無限であるとして締めている。

■感想

よくよく考えると自分も大学大学院と金融市場のデータを引っ張ぱり、C++でデータを処理、予測プログラムを走らせああだこうだとやっていた。実は米国でやっていたらそれなりに良い感じで職を得ていたのではないかと少し思った。

それはともかく、この頃にデータとはなにか、その扱い方は、処理方法はと実践できていたのは大きいのだろう。今でも簡単なプログラムはそれほど抵抗なく書ける。

またプログラムを書くというのはシミュレーションをする力もつくし、例外処理も上手になる。書いるうちに思い出したが、生き残っているトレーダーたちは自分も含めてBASICの頃から簡単にプログラムに触れていた。

そこには散々書いては直し書いては直しを繰り返したあとの、プログラムが持つ堅牢さに対する信頼があるのかもしれない。プログラムを書いて一発で正解にはたどりつけない。デバッグに次ぐデバッグが普通と思えるのは人格形成としても良いのではないだろうか。

何かに失敗しても、それは自分が駄目だからではなく、単に記述のミス、採用したアルゴリズムの間違い、実装方法の失敗、あるいは無限ループにはまってたなど、色々な事態が考えられそうそう簡単にはアイデンティティの問題にはならないからだ。

また自分の思いつきを検証できることによって、冷徹な現実と直面させられるということにも慣れる。

本書にはこのようなことは書いていなかったが、次の世代の教育というのはこういったものなのかもしれない。

久しぶりに自分もプログラムを書いてみようと思わされると同時に、書けるなら利用しない手はないなと。それから文の組み立て方によって分類できるというのも興味をそそられたので、米国アマゾンでその手の本を注文してみた。

ワクワクする一冊に出会えるのは嬉しいことでなにより。オススメ。